「管理職の意識&リーダーシップ改革が必須なダイバーシティ推進」
本日は、オブザーバー・事務局あわせて26名の方々に参加いただきました。初参加の方や男性の参加者も多く、この研究会自体も進化していることがうかがえました。
今回の研究会は2部構成で行いました。
【第1部】主宰者 植田による事前アンケートの分析結果報告&ミニ講義
【第2部】企業事例発表 生活協同組合連合会コープネット事業連合 人材開発部次長 太田邦江氏
■事前アンケートより(回答数:19名)
経営陣のモチベーションについて、高い・やや高いと回答したのは42%(高い26%、やや高い16%)で、個人差ありやわからないが半数以上を占めるものの、比較的高いことがわかります。彼らの昭和企業戦士度はやはり高くみられているようで、74%(全体4分の3)は企業戦士度が高い・やや高いと回答しています。”「365日24時間働け」というのが口癖”、”イクボスという言葉に対して反応もなければ前向きな意識も感じられない” というコメントから、経営陣の実態が想像できます。
上級管理職(事業部長~部長)のモチベーションは、経営陣よりやや低い印象で、高い・やや高いあわせて26%でした。この層の「個人差あり」の回答が53%と半数以上を占めており、部署により人により活き活き度合いのバラツキが顕著なことがうかがえます。彼らの企業戦士度もかなり高くみられており、高い・やや高いあわせて63%でした。”ダイバーシティ&インクルージョン実践力は、経営陣の思考に沿う範囲に留まっている” とのコメントが、現状をよく表していると感じます。
初級管理職(課長、課長代理)のモチベーションは、高い・やや高いあわせて48%と最も高い結果となりました。”若手のイクメンを応援している”、”世代交代で若返りが進んでいる” など時代とともに少しずつ組織が変わってきているようです。彼らの昭和企業戦士度、ダイバーシティ時代イクボス度の回答はバラツキがあり、この層で初めてイクボス度が高い・やや高いとの回答がありました(やや高い16%、高い5%)。初級管理職層は30~40代で自分自身もイクメンであることから、少しずつイクボスが増えてきているようです。
20~30代の一般社員のモチベーションは、高いが0%、やや高いが21%と最も低い結果で、”世代間のギャップに悩んでいる”、”初級管理者の働き方に辟易している” など気になるコメントもありました。また、ストレスで体調不良、メンタル不調で休職・退職する20~30代社員がいるかの問いでは、8割以上がいる・ややいると回答しており、昭和企業戦士度の高い管理職のもと、疲弊している若手社員の姿が浮き彫りとなりました。
アンケートの後半は、研修に関する問いが続きます。
経営陣・管理職に対するリーダーシップ(部下育成を意識した)研修の実施状況としては、63%がやっていると回答。計画中16%とあわせると8割近くが何らかの取り組みをしていることがわかります。ただ、研修の期間は半日以下あるいは1日の企業が多く、リーダーシップに焦点をあてたプログラム時間はそう多くないようです。研修の効果について、管理職自身の良い変化は「ある」・「少しある」あわせて約40%、部下・チームへの良い影響は
「ある」・「少しある」あわせて26%と一定の効果は出ているようです。
管理職に対するリーダーシップ研修、教育の必要性はどの企業でも「ある」と回答していました。実際に研修を行う上では、管理職の意識や考え方をどう変えたらよいのか、新任者だけでなくすでに管理職になっている人への研修の機会をどう増やすかなど、多くの企業が何らかの課題を持っていました。
今回のアンケートに回答してくださった方は、半数以上が管理職の方でした。いまの会社で管理職(あるいはさらに上位職)を目指したいかの問いに、7割近くの方が目指したいと思うと答えており、研究会参加メンバーの意識の高さを改めて実感しました。
■事例紹介より
テーマ:管理職の意識&リーダーシップ改革が必須なダイバーシティ推進
事例発表は生活協同組合連合会コープネット事業連合 人材開発部次長の太田邦江さんに発表頂きました。
まず、太田さん御自身の基本的な考え方をお話しされました。「組織の風土や体質が個人を刺激し、個人を育成する。」 植物に例えると組織は土壌。土壌によって同じ種や苗でも育ち方が変わり、一番身近な組織の代表である上司(管理職)の考えや行動が個人の進む方向に大きく影響します。
1995年日本生協連として男女共同参画に取り組むことを方針としてから本格化してきた施策の中から一例を紹介下さいました。
◆ダイバーシティ初期(2001~2005):男女共同参画からスタート
・トップ筆頭に重点課題として取組むと共にボトムアップを目的に各部代表職員で「Withタスク」を結成。のちに公募とし1年間のテーマを決めて取り組む(現在はWithタスクなし)。「Withニュース」を毎月、冊子「with」を毎年発行。
⇒「Withニュース」は、いろいろな角度から社員に向けて情報発信し、トップメッセージは勿論、メンターの経験談などダイバーシティ&インクルージョンの切り口になる内容が誌面に溢れています。
・パートから正規への積極的登用。
・女性職員ネットワークづくりと自分達で問題解決することを目的に「オフサイトミーティング」実施。
・トップや組合員(お客様)を含めたパネルディスカッション等の企画
・事業所長全員を対象にワークライフバランス学習会やワークショップをシリーズ化して開催。
◆ダイバーシティ中期(2006~):女性活躍推進へつなぐ取り組み
・2004年さいたまコープとコープとうきょうで組織連帯強化。2006年から統一して取り組む。
・更なる制度整備や事業所内保育室の設置。
・2007年 女性バイヤー積極配置、2007~2009年「女性キャリア支援セミナー」実施。
・子ども参観日の取組みや育児休職中職員の交流会を実施。
・2014年宅配事業「女性活躍推進タスク」の結成と答申策定。
組織を変えていく要は「管理職の意識の変容」であり、管理職を対象に植田寿乃先生によるモチベーション・リーダーシップ研修が2007年度より毎年数回ずつ実施されています。自身の価値観やリーダーシップスタイル、心のプロセスを知ることで部下への接し方を修得していきます。2日間の宿泊研修で、相手を理解しよう、様々な人を理解し受け入れ、自分が適応しようと意識が変化してきたとのこと。参加した幹部職員へのアンケートでも「部下を理解しようとしなかったのは自分自身だった。/今迄のマネジメントスタイルでは現在の状況に対応できない。/職場で早速部下への接し方を変えていきたい。/この研修を上司や部下にも薦めたい。」と前向きな変化が見られました。そして、継続し参加者が増えることでの変化は組織の土壌醸成に繋がります。尚、この研修導入の背景には,各地域の生協の組織文化の違いを認識し,理念・ビジョンの統一および浸透を行うと共に、研修を通して、さりげなく多様性(ダイバーシティ)を理解することと、これまで進めてきた取り組みを結びつける意図がありました。
このような個人や組織の行動変容へのアプローチは、主任・チームリーダークラスでも実践されています。サポーター制度を導入して8年、新人向けの4泊5日の研修についても御紹介下さいました。7~8名の新人に1名のサポーターがつき、ブロック毎でのセッションで一人ひとりに寄り添い支援する体験をします。「メンバーが日々成長する姿をみることが嬉しかった。/ともに成長していける職場環境をつくることが自分の責務だと感じた。」等の感想通り、5日間で先輩・新人ともに成長していきます。特に【いいね!!カード】を先輩がコメント付きで新人に渡す仕組みは、褒めることでモチベーションが上がり更に良くしていこうと意識向上になり、可愛いイメージながらも効果は大きいと思いました。
ディスカンション後に質問に答える太田さんは、モチベーション・リーダーシップ研修のスライドを改めて紹介し、組織で求められる役割と自分のキャリアビジョンを重ねながら働くことができれば充実感・働きがいは高まり、個人も組織も活性化していくことを伝えると共に、理念や大切にしていくことは変わらないが一人ひとりが活き活きと働き力を発揮することで組織が成長する点を強くメッセージされました。参加者から「どうしたらコープネットのようになるか考えたが太田さんを沢山作ることではないか」と、人材育成に関わる立場にとって一番モチベーション上る発言を頂きました。社員を大切にされている信念が伝わる秘訣は太田さんそのもの。「人材」は「人財」の真の意味が伝わってきます。
太田さんは当研究会の前身である女性と組織の活性化研究会の時にも登壇されていて、子育てと共に、ダイバーシティ推進の中核として活躍されてきました。今回は「自分自身の信念と仲間の存在が大切」と力強くおっしゃっていたことがとても印象的でした。お話を伺う毎に、私自身の軸がぶれないようダイバーシティ&インクルージョンを進めていくエネルギーを頂いています。
太田さん、貴重な事例を発表いただき本当にありがとうございました。
■グループディスカッションより
1グループ5名の中で各社の状況を紹介しあい、テーブル毎に席替えをしながら、各企業の方針や其々御自身の考えを共有することができました。
前半のディスカッションでは、事前アンケートと植田さんの講義を踏まえて、働き方改革は必須で、風通しの良い風土づくりにはコミュニケーションが要。自分が経験してきたことに価値観の比重を置きがちだが、様々な考え方を認めて行くことが、インクルージョンの原点ではないか、のようなコメントが多かった反面、業界や職種によってもイノベーション状況にばらつきがある印象を受けました。店舗を構える業界では、店長により風土が変わるとのこと、これは所在地が同じでも、部署毎に温度差が異なるのは所属長の考え方が影響する点と共通する課題です。
別のグループでは、自身がどのような立場でダイバーシティ推進の取り組みを行っているか、会社あるいは労働組合で最近取り組んでいること、推進する上での課題・問題点などざっくばらんに話していると、企業風土に関して共感できることも多く、盛り上がりました。例えば、会議の開始時間について。当たり前のように17時から設定されることもあるが、育児時短勤務者のことや、メンバーのワークライフバランスのことが全く考慮されておらず、イクボスとは程遠い、昭和企業戦士ならではの考え方が根付いている顕著な例です。また、女性社員に甘いが「応援している」という感じではなく、むしろ気を遣いすぎている、優しさを勘違いしているような管理職はまだ多いようです。
ミニ講義に出てきた「心配なリーダーたち」の中では、疲弊しまくりお疲れリーダーがどの組織でも多いような印象を受けました。上級管理職からの無茶ぶりで大変そうな初級管理職を見ると、いまの若手社員が管理職になりたがらないのも理解できます。ただ、このままでは組織自体も疲弊するばかりで、企業の持続的成長は望めません。組織活性化のカギを握る管理職には、やはり意識&リーダーシップ改革が必要だと感じました。
後半のディスカッションは太田さんへの発表も含めて意見交換。「研修」というと売る為の研修にフォーカスを当てがちだが、モチベーション系のソフト面でのアプローチは必要。事前アンケートによる集計データを見ながら、「働き甲斐のある会社にしていいきたい/自らが変わることも大切と分かっていても、なかなか行動を変えることには至らない。」などコメントありました。
次回の研究会は、第3回「労使で取り組む「働き方改革」&ダイバーシティ」と題して、2017年7月25日(火)に開催致します。皆様の参加をお待ちしておりますので、引き続きどうぞよろしくお願い致します。
文責:株式会社日経BPマーケティング 神田絵梨、キャリアコンサルタント 長島裕子