~厚労省のモデル就業規則から副業禁止が消えた!~
『副業、兼業をリードするロート製薬の先進的な取り組みとは』

本日は、ゲスト・事務局合わせて22名が参加しました。
今回は下記のような2部構成で開催しました。
【第1部】主宰者 植田による事前アンケートの分析結果報告
【第2部】ロート製薬株式会社 山本明子さんによる講演&グループディスカッション

【第1部】主宰者 植田による事前アンケートの分析結果報告_事前アンケートより(回答数:16社)

 就業規則で社員の兼業・副業を容認している企業25%、禁止している企業69%。容認例として、単発の講演や原稿執筆/労働審判など公の仕事/社会貢献にあたる、等に限定されている状況です。禁止している理由として、本業に支障が出ないように/勤怠その他業務内容の管理ができない/昔から禁止している等があげられました。 「報酬を得て営利目的とする他の会社等の役員または従業員となる場合は、予め会社に届け出て許可を得なければならない。」など具体的に就業規則内に記載されている企業もありました。
 しかし、実際に兼業&副業している人がいるかの問いには、いる及び少しいる_2割。 いない_1割、不明が7割近い。兼業&副業に関し人事も本人もオープンにしていない現状が伺えます。
兼業・副業の会社への影響については、回答5肢の中で、やや良い影響を与える25%、分からない75%と、2肢に集約されました。また、兼業&副業を推進するために問題課題が少しあると回答した企業79%、わからない31%と、これも回答が絞られました。
 回答者が実際に兼業・副業をしているかの設問では、過去の経験含めて3割程度。
全体的に、肯定コメントは「社員の収入面のフォローとなる/社外から吸収してくることから業務への問題意識の高まり、効果的な仕事ができる/様々なネットワークを持つここで業務へ応用できる機会が増える/個人のモチベーションに寄与」、否定コメントは「副業の業務次第では本業へのシフト影響や疲労、転職に繋がる懸念/労働時間管理、健康障害などの影響/本業が疎かになる/機密保持や社内コンプライアンス抵触しないか/人材流出の懸念」など具体的に列挙されました。
兼業・副業の実態が掴めない中で柔軟に対応している企業もあり、各社の姿勢や迷い悩みも読み取ることができました。
他、会社制度についての設問回答は次の通りです。
・退職金制度は回答企業全て導入しています。
・異動希望、職種変更希望などの自己申告制度がある企業は9割近い。
・今後10年、終身雇用的な安定雇用を続けられる可能性については(高い12%/、やや高い44%/、やや低い6%/、低い13%/、わからない25%)と回答が分かれました。
・退職者数については(増えている25%/、やや増加31%/、やや減少6%、減少0%/わからない38%)と退職者は増加傾向であり、これも兼業・副業に関する議論の起点になりえると思料します。

【第2部】ロート製薬株式会社 山本明子さんによる講演&グループディスカッション

 今回は講演ゲストとして、ロート製薬株式会社 人事総務部 第2人事グループ マネージャー 山本明子さんにご登壇いただき、兼業、副業をリードするロート製薬様における「働き方改革」の取り組みについてご講演いただきました。
 ロート製薬様の根底にあるのは、ホームページのスローガンにもある「NEVER SAY NEVER」“決してあきらめないこと。不可能を可能に変えていくこと。常識の枠を超えて挑み続けること。ひとりひとりを、社会を、もっともっと健康にしていくために、ロート製薬は決して立ち止まらない。”です。
「働き方改革」においても常識を疑うことからスタートしており、その根底にはあるのは、自らが考えて挑戦する、挑戦してもいいんだ、という雰囲気と風土の醸成をしてきたことが大きいというお話しから、挑戦や自主性風土の歴史として「環境面」、「制度面」、「場の提供」での取り組みをご紹介いただきました。
 「環境面」では、年齢関係なく議論ができるよう役職呼称を禁止されており、オープンオフィス化では、社長室や会長室を廃止し、役職者の席も島の奥(上座)から通路側に移すことでスピーディかつ円滑なコミュニケーションが取れるような仕掛けが行われています。また、雇用形態に関わらず全社員が参加するイベントや、お誕生日月には家族と共に祝えるようホールケーキがプレゼントされるなど、家族への感謝と全社員が一体感を持てる風土作りが実施されています。「制度面」では、個人の自主性を尊重する人事制度として自己申告書&昇格チャレンジ制度が施行され、成長するために自主的に手を上げる向上心とチャレンジ精神が求められるようになりました。しかしながら、仕事が出来さえすればいいというのではなく、一大イベントの運動会では挙手制度でスタッフを募り、企画立案から実施までまかせるなど、社員の主体性を本気で育てる取り組みが行われています。「場の提供」としては、全社員参加のディスカッション、子育て社員のママの会、異業種交流活動、起業家マインドを学ぶ会などを実施し、社内だけでなく社外からの刺激も取り入れる場を提供してこられたとの事です。ロート製薬様の根底にある文化として、「自分たちで考える」ということがあり、自分たちでやるからこそ、枠にとらわれず大胆で自由な発想ができる、素人がもがき苦しむからこそ、個人からプロへと成長することができている、とのお話しでした。
 兼業と兼務が生まれた背景としては、2003年からスタートしたARKプロジェクト(明日のロートを考える)があり、会社の制度はすべて人事が考えるもの?という疑問から、社員自身、特に若手が自分たちで考えて創り上げた会社のほうがよいのではないか?ということで様々なプロジェクトがスタートされたそうです。2014年には人事制度改革プロジェクトとして新しい働き方が提案され、プロジェクトの初期には、評価や昇格要件がわからない、残業を減らすには?もっと働き易い環境にするには?についての話し合いが行われ、プロジェクト後期には、そもそも自分はどんな人生を歩みたいかについてメンバーで考え、一度きりの人生なので、世間で通用する人材に早く成長したい、そのためには倍量倍速の二刀流が必要ということに。そこから、社外チャレンジワーク(兼業)、社内Wジョブ(兼務)が生まれ、新しい仕事に飛び込み、刺激を受ける事で仕事の幅を広げ、成長を後押しするという動きになられたそうです。
 スタート時、社内Wジョブ(兼務)は、入社3年目以上の正社員が、自己申告書提出時にエントリーし、年に一度の異動発令時に兼務を発令でスタート。現在は随時受け付けが行われており、人事が部署の間に入って調整し、兼務の割合は各部署で相談し実施されているそうです。初年度ダブルジョブ希望者は100名ほど。実際の辞令発令者は30名強いらっしゃったそうです。兼務例としては、営業×人事、品管×学術、購買×国際などがあったとのこと。実施者からは、仕事の効率を意識するため段取り力がアップする、社内人脈広がることで、仕事がしやすくなる、関連する部署での兼務の場合は、本業とのシナジー効果がある、役職者が兼務することで、メンバーが自立し育つという意見があり、一方で、活躍している人ほど、実質オーバーワーク気味であることが課題であるとおっしゃっていました。
 社外チャレンジワーク(兼業)については、対象者は社会人3年以上の正社員、中途入社も可。条件は健康を害するような働き方はNG、社会通念上の倫理観に外れるのはNG、情報漏えいに繋がる兼業はNG。人事へ届け出たうえで、原則ロートでの就業時間外の時間を利用して実践。初年度については、60名ほど申請請があり、種類としては資格系、NPO系、事業系、従業員系などに分かれ、申請者の3割強が何かしらの活動を開始したとのこと。一方で、本業が忙しくて実施できない、需給が合わないという理由で実施しなかった方も。兼業への動機は夢と腕試しが大半で、お金が目的という方はいらっしゃらないとのことでした。3年目の現在は70名の方が届け出ており、兼業の内容としては、調剤薬局勤務、コンサルティング、ライター、ローカルプランナー、デザイン会社設立、NPO法人に参画、大学非常勤講師、子どもの教育事業、喫茶店勤務などと伺い、多様性が感じられました。
 実施者からは、単純に普段と異なる仕事でリフレッシュとなる、社会貢献につながる、調剤薬剤師をすることで臨床現場がわかり、仕事にも副次的効果があるというコメントがありました。また、ロートでは味わえない刺激と緊張感がある、ロートの看板の大きさを知った、事業運営の厳しさを目の当たりにしたとの意見があったそうです。
 社外の方からは、“人材の流出にならないか?”、“会社のメリットはありますか?”、“人事サポートは?”についてよく聞かれるそうです。人材流出については、人材の流出はなく、会社へのロイヤリティがUPしているとのこと。会社のメリットとしては、事業主としての力をつけるチャンス、社外で得た視野視点が社内に変革を起こす可能性、社外ネットワークの広がりなど数多く、個人の興味や隠れた才能や資格を発見できる機会にもなっているとのことです。
“人事サポートは?”については、確定申告や保険関係についてのガイダンスは実施し、兼業をやりたい人の後押し支援を行っているとのことでした。就業規則の改変については、以前は“会社の許可無く副業することは×”でしたが、“成長を目的に兼業をみとめることがある”というポジティブな書き方に変更されたとのことです。
 兼業開始後の変化については、兼業解禁の認知により専門学校や技術系での授業講師の依頼、大学やセミナーでの講演依頼、地方自治体からの研修1年間受け入れ要請などがあり、兼業解禁企業の社員同士で新規ビジネスの立ち上げの話や、採用の現場では、兼業が認められる=先進&自由な企業という良いイメージ効果が感じられているとのこと。また、定年退職後のセカンドチャレンジに意識が向く方もいらっしゃるそうです。
 山本様は市場の変化の兆しとして、どこの会社でも兼業をしたいという人がポツポツ出現しており、副業を認めないと優秀な人ほど企業から離脱する可能性があるため、人事は話が出た時に対応できるよう今から準備しておく必要があると感じており、副業募集やマッチング事業としての新ビジネスも動いているので、兼業解禁が一気に加速するのではとおっしゃっていました。副業についての課題としては、強制にはしないものの、現在、一部の人がやっていることという状況をもう少し拡充できればとおっしゃっていました。
 山本様、貴重なお話をありがとうございました。

【グループディスカッションより】

■兼務について
・会社発信で発足された部門横断プロジェクトに、会社からの指名で参加している。
・社外の勉強会に参加する機会が増えたり、社内外のネットワークが広がったり、個人的には視野が広がりキャリアのプラスだと思っている。ただ、通常の業務が減らされることなく、プロジェクト業務が付与されたかたちなので、少しオーバーワークになりがち。健康管理など留意が必要。
・主務側と兼務側の部門長間で、それぞれどのような仕事をどれ位アサインするかなどきちんと話し合いがされないと、兼務はうまくいかないのではないか。

■兼業について
・今は終身雇用の時代ではないし、個人視点でキャリアアップや経験値を高めることを考えると、兼業OKは素晴らしい制度。それでも多くの企業が二の足を踏むのは、デメリットの方ばかりに目が行くから。過重労働になるのではないか、転職されるのではないかなど。ロート製薬様でこの制度が運用できるのは、個人の自主性を尊重する風土ができていること、会社が個人を縛っていない、メリットに目を向けているからだと感じる。
・好きなことはあるが、それは趣味で十分なのでそれを仕事に、とまでは現状考えていない
・会社に一生捧げるというのが当たり前の世代なので(40代前半)副業、と言われてもしっくりこない
・逆に、今の若い世代(新入社員、20代社員)は就社という概念がほとんどないようで、兼業という考え方に抵抗がないようだ
・役定後や定年後の再雇用時に収入が減少することを考えると減少分を補うために会社としても社員に対して兼業を促して収入の柱を増やすよう働きかけていくことも必要かもしれないと思った。

<次回の研究会予告>
◆2018年8月31日(金)13:30~16:30(13:15開場)
「働き方改革時代の新入社員の人生観、価値観と採用&教育」
講演ゲスト
コープデリ生活協同組合連合会 人材開発部 次長 太田邦江氏
キャリアコンサルタント/社会保険労務士  臼井淑子氏

皆さまの参加をお待ちしております。

文責:キャリアコンサルタント 長島裕子、パナソニック エイジフリー株式会社 小松多惠子、株式会社日経BPマーケティング 神田絵梨、キャリアコンサルタント 山岡正子