2022年7月29日(金)開催 【第25回】 オンライン研究会レポート

『ダイバーシティ推進の先に⾒えてきたもの、プロジェクト3年目そして未来』〜試⾏錯誤の中でのメンバーの成⻑と組織風⼟の変化〜と題し、株式会社ダイセル 事業支援本部 人事グループ 課長代理 岡嶋顕史様にご講演いただきました。

ダイセルは2020年にダイバーシティ推進プロジェクトを立ち上げました。その大きな背景には

ü  時代遅れの「働く」意識

・シニア社員の割合が多い

・女性社員・女性リーダー職(管理職)の割合が低い

ü  多様性に欠ける社員構成

・安定志向(従来の働き方を踏襲)が強い

・社会変化に無関心で柔軟姿勢が低い

ü  ひとり一人が活躍できる組織文化が未熟

・価値観の同質性が高い

・柔軟に変化できないジレンマ(ミドル層)

という課題があったからです。

 

社長直轄プロジェクトとして、ダイセルの様々な事業所から集まった15名(男性8名、女性7名)の意欲に満ちたメンバーと共に、3年間・任期制のダイバーシティ推進プロジェクト、「うぇるびー」がスタートしました。ダイバーシティといってもその施策は多岐に渡るので、その中からまず、会社が特に変わりにくいところや、テコ入れしないといけないところにフォーカスを当てて、キックオフされました。

 

2020年の取り組みの振り返り

初年度の2020年度は「自分自身を考えよう」と言うことを大きな目標として進めます。『ダイバーシティ&インクルージョンと言っても、前提として自分自身のことがわからなければ、相手の立場もわかるわけがない』ということで、自分自身を見つめ直す機会としてのキャリア研修を土台作りの一歩として実施することにしました。ちょうどコロナになったことでオンライン研修となりましたが、新しい働き方を提案するいい機会になり、またオンラインだからこそ、各事業所間の距離を超えた、横のつながりを作るキッカケにもなったそうです。

そして、相手を受け入れる土台作りとして、もうひとつ力を入れて取り組んできたことが、相手を認めること。ダイセルは職人気質且つシャイな社員が多い会社なので、相手を言葉にしてほめて認める「ほめ活」という取組みをやろうということになりました。この「ほめ活」の取組みは非常に好評を得て、相手の価値観を受け入れると言う、簡単そうではあるけど実は出来ていないことを、掘り起こすことが出来たそうです。

 

この活動を実際に進めてきた藤本さんから、半年に1回実施してきたアンケートについて話していただきました。『1回目のアンケートでは「こんな取組よりも、もっと大切なことがあるでしょ」など、ネガティブなコメントが多かったのですが、3回目・4回目くらいからコメントの内容がガラッと変わってきました。「部下を褒めたいけど自分たちは褒められたことがないので、どうやったらいいかわからないから助けてほしい」、「いい取組みなのでもっと全面的にやってほしい、でもやり方がわからないからサポートしてほしい」というような、前向きなコメントがすごく増えてきました。1回目・2回目のアンケートの時は心が折れそうでしたが、しぶとくやってきて良かったなと思っています』とのことでした。

 

また、男性の育児休業取得についても進められています。大昔のダイセルでは、まだまだ男性が育児休業を取りやすい環境ではなかったとのことです。そこから着実に男性育休の取りやすい会社へと変容を遂げていっていたダイセルでしたが、更に高みを目指すべく男性が育児休業を取りたいと言った時に、「なんで休むんだ?」ではなくて、「まずは、出産おめでとう!それは必要なことだから、ぜひ休んでください」と、自然と会社が言ってあげられる組織を作っていかなくてはいけない、ということで実際に育児休業を取得した経験を持つ安部さんが、プロジェクトに参加し、ダイセルグループとして育児休業を取りやすい環境・雰囲気づくりに尽力されています。「育休を是非取ってほしい」と言ってくれた、当時の上司と安倍さんに対談してもらい、その模様を全社にライブ配信したこともありました。

 

安部さんから、育児休業について話していただきました。『ライブ配信には多くのみなさんに参加して頂いて、色々な意見がチャットで飛び交って、面白かったですね。ボクが育休を取ったのがちょうど7年前で・・・』、とお話をしている場面で、『この子がその時に生まれた子どもです』と、小学校二年生になった男の子が画面に登場! ギャラリービューに映った本日の参加者から、とても素敵な笑顔と拍手が送られていました。

『子どもが生まれたら、おむつを替えたりとか、ごはんをあげたりとか、そういったことをしてあげたいなぁと思っていたので、思い切って当時の上司に相談してみました。当時は長期の男性育休は初めてのケースでダイセル内に事例は無かったんですけど、当時の上司も共働きをされていて、非常に子育てに苦労したという体験をされていたので、「応援してあげたい」と言って頂き実現しました。とてもいい経験をさせてもらいました』とのことでした。

 

2021年度の取り組みの振り返り

2年目は1年目でいろいろ取り組んできたところを土台にして、次のステップでさらに出来ることはないのか、議論・検討していきました。プロジェクトメンバーの人数も増やして、いままで力が割けなかったテーマについても、取り組んでいきます。

「まず、キャリアについて考えよう」ということで一歩を踏み出してきたキャリア施策の1年目でしたが、「ダイセルの中だけでは気づけない価値観を見つけてもらおう」という内容の研修を行いました。

研修の主催を担当した藤田さんから、『「幸せ度にこだわってみよう」というのが2021年度の取組でもあったので、働く人の幸せを考えていくことが、自分たちのキャリアを考えていく第一歩になるのではないか、そのきっかけになればと考えて講演会を開催しました。そして、さらにもっと勉強したいという人には、そのあと「キャリアプランニングワークショップ」という形で集まってもらい、さらに理解を深めたいという人には公開のセミナーに参加してもらって学びを深める。こんな形で、自分自身が幸せになるための気づきを広げてもらう仕掛けをさせてもらいました。』と具体的な内容についてお話しくださいました。

 

キャリアについては外部の研修だけではなく、内部からもしっかり情報発信しないといけない、という課題を持たれており、実際にキャリアと言うものをどう考えて行ったらいいのか知ってもらうきっかけ作りとして、ロールモデル交流会というもの開催されました。岡嶋さんはいろんな人を巻き込みながら、会社の思いをラフに伝えていこうと、コロナ禍になってから社内で「おかじラジオ」という、オンラインによるインタビュー形式の生配信の番組を始めていらっしゃいます。この配信の中で、社内の有名人やキーマンの社員に登場してもらって、その人がどういうキャリアを、どういう思いで歩んできたのかなどを、「DJおかじ」さんと対談形式で話してもらっており、このロールモデル交流会もそこで配信されており、500名を超える社員に視聴して頂いた実績もあるようです。

 

つぎは、アンコンシャス・バイアスについて着目されました。無意識の偏見と言うものを社内に広めることで、社員ひとり一人の能力や可能性が最大限に発揮できるようしよう、と先ずはアンコンシャス・バイアスの存在を広く知ってもらうために社内チラシを作成し、配布する取り組みを行いました。

 

社内チラシの製作に携わった助友さんからは、『これからのダイバーシティ&インクルージョンを考えたときに、アンコンシャス・バイアスというキーワードが、非常に重要になると意見が多く出てこのテーマにチャレンジしました。1回目発行の半年後に1回目よりももっと大きいサイズのチラシを作ったのですが、自分たちで記事を書いていく中で、自分自身のアンコンシャス・バイアスに気づいたりして、大変勉強になりました。』と報告して頂きました。

 

そして、2年目の総括として、次の3つの課題を上げられています。

課題① すべての人に取り組みが届いていない実感がある

      特に工場で働く社員には情報が届きにくく、取り組みに参加しにくいことがわかった

課題② 従業員の一人一人が、D&Iを自分事にできていないのではないか

      情報が届いていても受け手側が変わっておらず響きにくい

課題③ 当初課題と思っていなかったことも課題として認識できるようになったが、

      2年目はテーマが多くなり活動が発散気味になった

課題が多角化・多様化しメンバー自身が悩むこともあった

この様な課題を元に3年目をスタートされていきます。

 

2022年の飛躍に向けて

2年目はテーマが多すぎるように感じたということを反省点にして、最後の年の3年目はテーマを絞ってスビートアップを狙いとすることはもちろん、各現場はどんなことを思っているのかよりクリアにつかむために、色々な工場や研究所、本社などにそれぞれ人員をバランス良く配置し、しっかり現場の声を吸い上げられる体制にされました。全員が企画を考えるのではなく、企画を考えるメンバーと、現場への情報宣伝及び現場の生の声を聴いてきて施策をブラッシュアップするメンバーとに分けた組織体制です。

プロジェクトが2年目を過ぎた頃から、既存組織のキャリアに対する考え方や意識が変化し出してきたので、まだダイセルとしてまだ引き続きテコ入れの必要な次の4点に注力して、活動していくことになりました。

① 従業員のキャリア支援活動

   人事グループや労働組合が計画しているキャリア育成プランと連動した活動を実施する

   (ダイセル版セルフキャリアドック、ロールモデル交流会の検討など)

② キャリアビジョンを実現出来る制度拡充・情報宣伝

   これまでに実現した諸制度(社内公募、副業、フレキシブルワーク制度)などの情報宣伝と新たな施策の検討

③ アンコンシャス・バイアスの理解と多様な人財への活用

   セクシャル・マイノリティに対する意識付け活動。

   障がい者雇用の促進・意識啓発(既に活動している他部門との連携)

④ マネジメント層への教育

   様々な人財をマネジメントしている層へのダイバーシティ的マネジメントの在り方についての知識付与の機会を検討

 

その中のキャリア支援施策のひとつとして、「サイト長(工場長)塾」をいうものの開催を企画されております。キャリアについて一番考える年代である30歳~35歳の社員を対象に、工場の人員を束ねるサイト長自身がその年代の時にどんな思いで仕事をして、何を身に着けていったのかを振り返りつつ、今思う事を伝えてもらい、参加者はサイト⻑の職業⼈生を聞いて、この先の⾃分のキャリア形成上で聞きたい事、悩んでいる事をグループワーク形式で話してもらう会です。一緒にディスカッションすることで、工場単位でキャリアを考えるきっかけを作る仕組みを実現して行こうと考えられています。もちろん1回のディスカッションでは深堀りするのは難しいので、キャリア面談なども通じて具体的に困っていることをしっかり拾い上げて、一緒になって解決していけるような体制を考えて行こうとされています。

 

また、アンコンシャス・バイアスの理解に関しては、ダイセルグループでは年に1回コンプライアンス強調月間として、全社員が職場単位でディスカッションをする機会があり、その中のテーマの一つにアンコンシャス・バイアスに関わるものを入れてディスカッションしてもらうことにしました。そういう問題がどこの職場にもあると言うことに広く気づいてもらい、アンコンシャス・バイアスに関して全員に自分事化してもらうきっかけを作りだそうとされています。

 

そして、障がい者の雇用については、人事部門だけで進めるのではなく、障がい者の方の受入部署も巻き込んで、外部講師によるセミナーを開催するなどして、精神・発達障害に関する基礎知識や、どのような仕事に向いているかという観点で、受入部門の理解を深める機会とされています。

 

3年目を迎えたプロジェクトについて、次のようにまとめられています。最初はトップダウンで始まったプロジェクトだったので、決めてもらったテーマを「とりあえず、やっていこう」という意識の人が多かったのではないかということでした。しかし、1年目2年目とプロジェクトが進んでいくと、アンケート結果など現場の声を聞いて「こうすればもっと良かったかなぁ」と、自ら考えながら次の行動をしていくようになり、我々自身の意識変革が進んできたと強く実感されるようになったそうです。

 

プロジェクトを推進されてきた藤堂さんからは、『上手くいったところ・いかなかったところなど、今日お話しできてないところはいっぱいあります。今日出席のダイセルのメンバーは特に苦労しながら、苦悶しながら進めてきてここにきているのが実情ですね』とコメントされました。

 

石川さんからは『ひとりでは決してできなかったことが、このメンバーが集まったからこそできたのかなぁと思っています。みんな本業を抱えつつ自分の時間を割いてまでもこれをやりたい、というひとりひとりの原動力をみんなで協力してやってきました。その原動力が課題を一つ一つクリアしていって、会社全体の雰囲気を変えていくことになったのかなと思います。これをそのまま終わらせないために、定着化させると言うことがこれからの課題だと感じています。』とコメントされました。

 

ダイバーシティ推進プロジェクト「うぇるびー」は大変すばらしい活動であることが、実感できました。そして、岡嶋様には「おかじラジオ」を通じて色々な情報発信をこれからも続けて頂きたいと思います。

岡嶋様、プロジェクトメンバーの皆様、貴重なお話をどうもありがとうございました。

 

(文責 高久和男)