『働き方改革時代の新入社員の人生観、価値観と採用&教育』

本日は、ゲスト・事務局合わせて16名の参加となり、下記のような3部構成で開催しました。
【第1部】主宰者 植田による事前アンケートの分析結果報告
【第2部】「働き方改革時代の学生の人生観、価値観」
キャリアコンサルタント・社会保険労務士 臼井淑子氏
【第3部】「働き方改革時代の新入社員の人生観、価値観と採用&教育」
コープデリ生活協同組合連合会 人材開発部 次長 太田邦江氏

【第1部】主宰者 植田による事前アンケートの分析結果報告(回答数:15社)
 アンケートでは、ここ3年での新入社員の傾向についてお伺いしました。採用人数は、増えている、やや増えているが40%、男女比は、66%が男性の方が多い傾向ですが、ほぼ同じが27%となり、男女比が同じに近づいてきてるようです。新入社員の特徴については、“当たり前だが、根性論は通用しない”、“ワークライフバランスへの関心が高い”、“コミュニケーション下手”、“打たれ弱い人が増えている”、“女性の方がたくましさを感じる”などのコメントがあり、よりリアルな話が聴きたいと、この後の事例発表への期待が高まりました。ました。新入社員の採用に関しては、70%以上の会社が苦労していると回答しており、有望な社員は他社との争奪戦となるなど、深刻な人手不足の様子が伺えました。入社3年以内に退職する人は増えている、やや増えているが40%、新入社員に対する教育期間は1ヶ月以上3ヶ月未満が20%、3ヶ月以上が46%と、長期にわたって手厚く実施されているようです。キャリアカウンセリング等の個別フォローも54%の会社が実施しており、メンター制度を導入しているとの回答も33%ありました。新入社員の教育に関しては、70%以上の方が課題や問題があると感じていることから、今後の改善・改革が必須である考えられます。グループディスカッションでは、人材開発、採用関係、労働組合等、様々な視点から活発な意見交換が行われました。

【第2部】「働き方改革時代の学生の人生観、価値観」
 臼井さんからは、「働き方改革時代の学生の人生観、価値観」をテーマに、大学、大学院における学生の実情をお話しいただきました。2児(小学生)を育てながら続けてきた大学でのキャリアアドバイザーは7年目を迎え、現在は企業でのキャリア研修講師、社会保険労務士としてもご活躍中です。
 自己己紹介では、やりたい仕事が見えていたのに、たどり着き方がわからなかった就活の話や、大好きなビールの会社に入社したものの、やりがいに悩んだキャリアの壁、そして人と深く関わりたいという想いで人材開発業界に転身したことで、自分がやりたかった仕事がキャリアカウンセラーであると気づいたというお話を伺いました。営業マネージャーとして活躍していた人材開発業界は、残業、徹夜が当たり前なハードな職場だったそうです。臼井さんは、子育てをしながらも働き続けたいという想いが強く、復職してからは一人働き方改革を進め、時間がない中でも業績をしっかりあげてこられました。しかしながら、マタハラとも感じる処遇を受け、会社を退職して独立の道を選ぶと共に社会保険労務士の資格を取られました。大学でのキャリアアドバイザーの仕事を選んだ根底には、このようなご自身の経緯から、学生が職業選択する際の可能性を拡げてあげたいという想いがあったそうです。
 臼井さんからの“学生から、一番多い相談は何だと思いますか?”という問いかけに対し、各テーブルからは、“自分には何が向いていますか?”、“強みって何ですか?”、“何をしたら受かりますか?”、“自分が何をしたいかわからない”などの意見が出ました。実際に多いのは、“やりたいことが分からない”という相談とのことでした。自己分析が不十分であり、仕事や会社、社会のことも知らなさすぎる。また、今まで、他人に言われたこと、求められることをやってきたので、自分のやりたいこがわからないし、自分の気持ちもわからない。そもそも働きたくない、という正直な本音も見え隠れしているようです。また、やりたいことはあるのだけれど、それが仕事に結びつくとは思えなくて、仕事用のやりたいこと(大学で研究してきた成果を活かせる仕事)を見つけようとするという学生もいるそうで、そんな方には、枠を取っ払って、興味のあること、やりたいことに挑戦するよう背中を押してあげるそうです。
 学生が企業を選ぶポイントとしては、「やる気学生」と「守り学生」では大切にしている価値観が違うというお話をいただきました。「やる気学生」が大切にしている価値観は「成長」、“自分が成長できるかどうか”が基準となり、若いうちから仕事を任せてもらえるか、成長できるのであれば、ハードな働き方も受け入れられる、でも、無駄な仕事はしたくないし、成果に見合った報酬がほしい。「守り学生」が大切にしている価値観は「安心」、守り学生から問いかけられるのは、「ホワイト企業の探し方」。“仕事はそこそこ何でもいいから、安心して辛くないところで働きたい“、と守りに入る背景には、労働とは「辛いもの」という先入観があり、それは昨今の過労死、過労自殺の報道や、両親の働いている姿からの影響が大きいのではないかと思われるとのこと。「守り学生」は、決してやる気のない学生というわけではなく、“やるべきことはちゃんとやるので、自分の時間もちゃんとください。眠る時間をください。人間らしく生きたいです。”という、極端に会社や仕事に対する恐れがあるのでは?と感じられるそうです。また、「やる気学生」「守り学生」、どちらにも選ばれない企業として、「昭和の軍隊型の組織」が挙げられました。実力よりも年功序列、個人の成長よりも企業の都合、滅私奉行を強いる、長時間労働できる人を重用する。このような組織風土の企業はいずれの学生からも敬遠されてしまいます。
 参考データとして、日本生産性本部が発表している2018年度の新入社員意識調査の結果をご紹介いただきました。「第一志望の会社に入社した」方は80.6%と過去最高。「自分のキャリアプランに反する仕事を我慢して続けるのは無意味だ」と思っている方は38%で6年連続増加傾向、こちらも過去最高。さらに「残業が少なく、平日でも自分の時間を持て、趣味などに時間が使える職場」を望む方も75.9%で過去最高という数字から、臼井さんが実体験で感じていることと合致した結果だったということです。
 その他、相談を受けていて気になることとして、LGBTへの理解、内定ブルーの戸惑い、発達障害等、メンタル不調、海外留学生(言葉の壁)があり、社会全体の課題とも感じられました。
 最後に、「学生の就活に対して会社側ができること」とてして、いくつかのポイントをお話しいただきました。“★「判断材料」となる情報提供が重要”、学生はとにかく社会、会社を知らないので、働く姿がイメージできる情報があると仕事への理解が深まり、入社後のミスマッチを防ぐことにもつながります。“★内定者フォローはきめ細かく”、たとえ第一志望の会社に内定をもらったとしても、「これで人生が決まってしまう、そのあとは修整不可能なのではないか」、そんな不安な気持ちでいっぱいです。一人ひとりの気持ちに寄り添い、一人の人間の人生を引き受ける覚悟で関わってください。“★学生の本質を是非見てください”、志望動機がうまく言えなくても、ここで働きたいという強い気持ちや意欲、才能、可能性を見出してください。“★ダイバーシティ推進・働き方改革はもはやスタート地点”、制度の整備は当たり前で、時代の変化によって「働く」という定義が変わってきました。その人それぞれの基準や価値観の中で、個々が持つ「働きやすさ」が企業選びの重要なファクターではあると感じていらっしゃるとのことでした。
 発表の要所要所で参加者との意見交換の時間を取りながら進めていただき、より理解を深めることができました。ありがとうございました。

【第3部】「働き方改革時代の新入社員の人生観、価値観と採用&教育」
 コープデリ連合会の太田さんから、「働き方改革時代の新入社員の人生観、価値観と採用&教育」をテーマにお話しいただきました。最初にコープデリ連合会の歴史と共に太田さんの自己紹介をお伺いしました。コープデリ連合会は、長年にわたり合併、加入が行われ、現在1都7県7生協の連合会として、宅配、スーパーマーケット、福祉、共済・保険など暮らしに関わる事業を営んでいます。太田さん自身は1987年に新卒で入職され、数々の部署を経験したのち2003年から人事教育部教育担当となり、現在は人材開発部次長として、連合会全体の職員の教育、組織開発に携わっていらっしゃいます。
 まずは、採用の現状を伝えたいという事で、中途採用に応募される方々の本音部分をお話しいただきました。転職理由としては、“子供と一緒にいられる時間を作りたい”、“転勤がなく自宅から近い職場で働きたい”など、男性、女性に関わらず「お金や出世よりも、家族や自分を大事にしたい」という内容が増えていると実感しているそうです。その背景には、ここ数年、パート社員の採用できなくなったことから、エリア限定職の募集(通勤時間1時間以内)を始めたことがあるとのことでした。総合職より低めの収入にも関わらず、将来的にエリア限定から総合職を目指せるのであれば、今は家族との時間を大切にしたいと考える30代、40代の男性も増えているとのことで、ワークライフバランスに拘って転職活動をする方が多いという印象があるそうです。
 続いて新卒採用者の価値観や教育体制についてお話いただきました。今年度の志望動機のキーワードとして多かったのが、1.「人」、2.「地域」、3.「食」、4.「貢献」、5.「職員」となり、数年前と比較して変わってきたポイントを下記のように上げられました。“1.職員の姿を見て「働きたい」とう応募が増加”、子供の頃に見た配達のお兄さんやお姉さんの姿、インターンシップで見た働く人の姿、説明会で見た職員の方々の笑顔など、自分が見て、感じた姿を信じて応募する学生が増加、さらには、親の名前を明かさずに職員の子供が応募してくるケースも増えているとのこと。“2.10年前多かった「制度が充実しているから」は皆無”、出産・育児に関わる制度が充実していることは、どこの企業でも当たり前となったことから、制度の充実を挙げる方はいなくなったそうです。“3.「地元で、身近な、安心できるところで働きたい」は以前から多いが微増”、地域密着型の組織なので、以前から多い理由ですが、さらに増えていると感じるそうです。“4.「人とのつながり」が増加”、以前はバイヤーをやってみたい、商品開発の仕事がやりたい、品質管理の仕事をやりたい、と言う人が多かったそうですが、最近では、何をやりたいより、人とのつながりに重きを置く人が増えているそうです。しかしながら、人とのつながりを重視しているわりに、コミュニケーションの取り方がわかっていない。ということもあり、新卒採用時研修で重点を置いている項目へと続きました。
 新卒採用者の特徴として、志望動機のキーワードの1番に「人」と関わりたいと挙げているわりに、電話ができない、挨拶ができない、知らない人には興味がないなど、少人数の付き合いには慣れているが、チーム経験が少ないように感じられるそうです。新卒採用時研修では、先輩職員がサポーターとして参加する5日間の合宿研修を皮切りに、仕事の疑似体験、実務研修など約1ヶ月間にわたり手厚く実施されています。浮かないように、目立たぬように、失敗しないようにと行動しがちなだけに、今年度の重点項目の1番目には“「失敗してもいいからチャレンジすることの大切さを体感させる」しくみづくり”が掲げられていました。コミュニケーションの基本となる挨拶については、研修中に“あいさつ競争”を2回実施し、お客様はもちろん、配属先の方々とも良好な関係が築けるよう、自分から元気に挨拶できる態度を身につけていきます。
 2番目に掲げられている“一人ひとりに対応することとチームづくり”におけるサポーターの役割は大きく、“1.躾”、“2.理念の伝道師”、“3.商品を語る(理念の伝道師)”、“4.気づきを促し成長を助ける”、などの役割が任せられます。サポーター1人あたり約6人の新人を担当し、日々の成長記録シートには“昨日できなかったことが、今日できるようになった”、“どんな顔をして、どんなことを言っていた”など、先入観を持たず、事実を”書き留めていきます。また、“〇〇の発言良かったね。”、〇〇にチャレンジできたね。などをメモした「いいねカード」も渡していきます。新人にとっては、自分を見てもらっている、認めてもらえているという自信につながると共に、サポーターにとっては、新人をしっかり見る大切さ、安易に教えるのではなく、自分自身で何を発見したのかを気づかせ、見守るという経験が積まれることで、リーダーとして必要な学びができていると感じました。
 3番目の項目である“「なんのため」という目的・意味・意義の追求”では「仕事には全て目的がある」というメッセージと共に、「誰に対して」「何のために」を繰り返し問いかけることで気づきを深めます。また、サポーター自らの感動経験を語ることで理念の持つ意味の理解を促します。4番目の“「相手の立場に立つ」という多様性の理解”では、高齢者疑似体験や視覚障がい者ガイドヘルプ、認知症サポーターを体験し、5番目の“成長実感を味わう”では、日々、節目の振り返りにおける周囲の方への感謝と共に、自信の成長を確認し、研修の最後には印象に残った場面をイラストで残すことで、気づきを深めているとのことでした。
 最後に新人育成に思うこととして、居場所作りの大切さのお話をいただきました。期待と不安な気持ちを抱えている新人だからこそ、ここにいていい、ここがあなたの居場所なのだと伝えることが大切。迎え入れてもらえている、受け入れてもらえている、という安心感こそが、自信と成長につながるのだと感じました。
 太田さんには、たくさんの写真や資料を準備いただくと共に、大変参考になる発表をいただき感謝致します。ありがとうございました。
(文責:キャリアコンサルタント 山岡正子)